L's Life Songs

Lの人生における、特別な曲と忘れたくない思い出。半分フィクション、半分ノンフィクション。

♪ Crazy / Gnarls Barkley

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約3年前のあの日、私はまさしく正気を失っていた。医師に告げられた突然の診断。それは私に一生付きまとうものだった。取って付けたような笑顔の医師に色々と励ましの言葉をかけられたが、耳に入ってこなかった。薬を処方され、受付に響く私の名前。ああ、私を呼んでいる。これが現実なのか。

薬局を後にし、まるで寝起きのようにぼーっとしたまま電車に乗った。頭の中に靄がかかっていた。何も考えられなかった。

電車を降り、ホームに着いた瞬間に突然歩けなくなった。大雨の後に川が氾濫するように、堰き止めていた感情が一気に溢れて来たようだ。

全てが狂っている。この身体も、こんな薬も、今の生活も、過去の傷も、もう全てが。自分を取り巻く様々なしがらみが浮かんでは消える。それらが自分を狂わせ、嘲笑っている。きっと自分はcrazyにまみれ過ぎているんだ...。

"Maybe I'm crazy

  Maybe You're crazy

  Maybe We're crazy

  Probably "

狂気の渦の中、私は正気を保つことなんかできるだろうか。でも、自分でも薄々分かっている。もう侵食されつつあるってこと。後戻りなんかできないってことも。

♪ 闇の告白 / 尾崎豊

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全てが嫌になった14歳の時、家を飛び出た。たくさんの家を転々とし思春期を過ごした。そんな時代、尾崎豊は支えの一つだった。声に出来ない私の心の叫びを彼が代弁してくれたような気がしたからだ。
ある時期に海沿いの家で暮らした。恵まれたことにそこは設備が整っていたからほとんど1人で生活していた。窓を開けると一面に広がる海が静かに波打っている。ベランダでその様子を眺めながら様々な考えに耽っていた。しかし、夜の海を見つめていると、その暗闇に飲み込まれそうな錯覚に陥ることがあった。広大な漆黒の波。それが私の中にまで押し寄せ、光の届かない海中に引きずり込もうとする。そうはさせまいと踏ん張るが、いっそのこと力を抜いてしまえば楽になるのだろうか。いや、もしかしたら既に溺れているのかも知れない。酸素を求めもがいているのだろうか。
自分の光を隠す存在から逃れ、自分の答えを見つけるべく行動したはずだった。しかし、迫り来る闇が、孤独が、選択が、明日が、なぜこんなにも恐ろしいのだろう。

"いつの日か 自分を撃ち抜く ただ一人 答えを 撃ち抜く"
正しい答えかどうかは分からなかった。今でも分からない。ただ、自分で撃ち放った弾丸の軌跡が、傷跡として刻み残されていることだけは分かった。

♪ New Year's Day / U2

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決意を新たにした瞬間から、今までと違う時間が流れる。そう感じるのは気のせいなのだろうか。そんな自分騙しな日々を繰り返して時には涙を流し、時には愛に触れる。私たちは毎日を戦う、悲しくて頑丈な戦士だ。

ある年を私は東京で迎えた。申し訳程度に雪が降る曇天の日だった。新しい年の幕開けだと言うのに、一向に気持ちが晴れない。この空と同じように、鉛色の分厚い雲が胸の中で渦巻いていた。年が変わっただけで何が変わるというのだろう。むしろ始まってしまった新たな一年への不安が大きくなった。これから自分を待ち受けているあらゆること...。

気付けば夜が更け、日付も変わっていた。祈るような気持ちでベッドに入る。明日になると、何か変わっていることがあるだろうか。

♪ Tonight Is The Night / Outasight

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間一髪で最終電車に飛び乗る。着いた先は何度も来ている見慣れた街。浮かれた気持ちを抑えきれず、足早に道を行く。ようやく到着したいつもの集合場所で、靴を脱ぐことすらもどかしい。おまたせ。今日は金曜日。今夜は仲間達と過ごすんだ。

当時、塾でアルバイトをしていた私は一丁前に「先生」って呼ばれていた。着慣れないスーツなんかも着て。でも、授業が終われば自由の身。息苦しいスーツを脱ぎ捨て、「先生」はもう終わり。夜はこれからだ。思わず1人でにやけてしまう

心地よくて楽しい、仲間達と過ごす夜。映画を観たり、トランプをしたり、ギターを弾いたり。泥酔して失敗もしたな。くだらない話で盛り上がったと思えば、真剣な話し合いもした。ずっと続くことを願うほど幸せな時間。笑顔が弾ける色とりどりの瞬間が積み重なって、まるで虹のように輝いていた。夜だけどたしかに虹が見えた。

あれから数年が経った今、この仲間達が揃う日はもう来ないだろう。それぞれに事情ってやつがあるから。この仲間達と共にした日々を思い出して、寂しさが込み上げてくる時もある。でも、あの夜に見つけた虹は消えていない。記憶の中で同じ姿のまま、鮮やかな光を放ち続けている。このきらめきはきっと永遠に失われないよ。

♪ In a Black Out / Hamilton Leithauser + Rostam

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1日で最も好きな時間。それは夜だ。深夜の街は特に大好きだ。あれだけ騒々しかった日中から一転、今度は静寂が街を支配している。人通りもなく、街灯が寂しげに道を照らしている。まるでこの世界に自分1人だけが存在しているみたいだ。見慣れた街の風景が全く違った表情を見せるのは、夜の魔力のせいだろう。

真夜中の散歩の途中、少し休憩。遊歩道の階段に腰を下ろして一服をする。ライターの炎が一瞬だけ周りを明るくした。

のない世界にいると、いつもと違う自分になる気がする。普段は考えないようなことを考えたり、自分を振り返ってみたり。時間の流れがスローで、自分と対話しているようだ。そして、なんだかセンチメンタルになる。悲しくて仕方がないって訳ではないけど、涙をこらえている時みたいに胸が締め付けられるような気分になる。きっとこれも自分が夜の力に飲まれているからだ。この街と同じように。自分にそう言い聞かせて、煙草の火を消した。

♪ Obstacles / Syd Matters

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人生は選択の連続だ。そして、時間をさかのぼってその選択を変えることは決してできない。そんなことは誰しもが分かりきっているのに、あの時に戻りたい、と強く思う瞬間があるのは何故だろう。いや、不可能だからこそかな。決して実現しないことを理解しているからこそ、戻らない時間に想いを馳せたり、後悔したりするのかも知れない。

残酷なまでに一方通行で流れていく時間の中で、いつまでその場に留まっておくのだろう。たまにはそっと手を離して、その流れに身を任せてみるのも良いかも知れない。その先には新たな困難がきっと立ち構えている。でも、進んだ分だけ新たな世界も待っているはずだ。遠い昔、時間は川の流れの様だと言った人がいる。今はその言葉の意味が少しだけ分かったかも知れない。時々、その濁流に飲まれそうになってしまうけど、きっと過去の染みも一緒に洗い流してくれる。そして、きれいな身体にして新しい場所へと運んでくれる。こうやって人間は時間の川を旅する生き物なんだろう。

♪ Imitation Of Life / R.E.M.

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 人生において、忘れられないいくつかの瞬間は誰にでもある。それらは自分の奥深い所に刻み込まれていて、ふとした瞬間に顔を出す。そんな時に自分のルーツを考えさせられる。

11歳の春先、両親が大喧嘩をした。それは慣れっこだったから、私は妹と一緒にいつも通り自分の部屋に行った。喧嘩の声を聞くのは好きじゃないから。でも、どうしても気になってしまう。矛盾した気持ちを抱え、こっそり聞き耳を立てていた。ドア越しに聞こえる両親の怒鳴り声がいつもと違う。そして、なんとなく分かった。母親がもう家を出る決意をしたんだって。そして、父親が悪態をつきながら大きな音を立てて玄関を飛び出た。ああ、これから私たちはどうなるんだろう。

ふいに外から窓をノックする音が聞こえた。その正体は父親だった。そして、窓の小さな隙間から紙切れを渡して、「何かあったらここに連絡して。」とだけ言った。そこに書き殴られていたのは父親の携帯電話の番号。私が返事をする間も無く父親は去って行った。妹はその様子を黙って見ていた。母親はリビングで泣いていた。

1時間ぽっちのこの出来事が私は今でも忘れられない。両親の大声を聞きながら眺めた机の傷、立ち去る父親の背中、窓越しに見た青空、母親の泣き顔。10年以上も時間が流れているのに、ちらちらと蘇る。この残像と私はいつまで向き合わないといけないんだろう。"no one can see me cry. " 今日も世界中で誰も知ることのない、でも忘れられない瞬間の物語が紡がれているんだろうな。